本郷百貨店
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医療器具販売「いわしや」会長 有馬義忠さん

 東大赤門の真ん前に店を構える「いわしや」は、創業百年を迎える医療器具販売店だ。大正3年にこの地で創業し、現社長は7代目。6代目社長で現在は会長職に就く有馬義忠さんは、昭和25年に就職してから64年間、店に立ち続けてきた。

江戸時代にルーツを持つ医療器械販売店

 「いわしや」の歴史は江戸時代に遡る。天保6年(1835年)の江戸の絵図に「薬種 鰯屋」の看板を掲げた店の様子が描かれている。
「始まりは漢方薬を扱う薬屋で、元は大阪の網元だったから屋号が『鰯屋』。幕府の御用商人で、大手門前という抜群の立地で商売をしていたようです。その後、年季奉公した丁稚に暖簾分けして全国に『いわしや』が広まり、当社もその一つと聞いています」と有馬さん。多い時は全国に90社前後の「いわしや」があり、時代の変遷により漢方薬から医療器械へと扱うものが変わっていった。
 有馬さんは山口県の出身。戦時中は少年飛行兵として所沢の陸軍飛行学校に入っていた。終戦後、好きだった電気の勉強をしたいと上京し、「いわしや」に就職。
「青雲の志で上京しました。お金がないから学費を稼いで大学に行こうと思い、1年間は朝から夜10時までがむしゃらに働きました。1年後、当時の社長に『働きながら学校に行きたい』と伝えると、『おおいに結構。やりたまえ』と5時に仕事を上がらせてもらい、夜間高校に通って東京電機大学に合格。その後の6年間も昼は仕事、夜は学校の慌ただしい生活でしたが、若くてやる気があったから、ちっとも辛くなかったですね」

大正から昭和の歴史を今に伝える薬棚

 医療器械の小売店は、「いわしや」を含めて全国にわずか2店しかない。大正時代から使い続ける薬棚には、外科用、内科用、眼科用、耳鼻咽喉科用、産婦人科用など、多種多様な鋼製器械が展示されている。
「ハサミやメスはお医者さんによって使い勝手が違う。カタログだけでは道具を持った感触や切れ味までわからないから、実際に手に取って確かめたいという先生達が店を訪れるんですよ」。最近では、医療用のハサミを美容道具として買い求める客や、薬瓶を「かわいい!」といって雑貨感覚で買っていく若い女性も多い。年季の入った薬棚や展示品の古い顕微鏡を見て誘われるように入ってくる客も多く、昔話に花が咲くこともしばしば。「店頭の薬棚は、巣鴨プリズンに納めた時の余りなんです」という言葉に驚きながら、店の歴史に思いを馳せずにはいられない。こうした雑談を楽しめるのも小売店の良さだ。
 有馬さんは86歳の今も毎日、自宅のある千石から本郷まで自転車通勤しているという。パワフルなお年寄りが現役で働く。これも本郷の街を支える原動力だ。(文:阿部博子 写真:清水美由紀)

いわしや

東京都文京区本郷5-27-8
電話:03-3811-4069
定休日:日曜・祝日
営業時間:9時~18時

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