本郷百貨店
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大正末期創業の魚屋の3代目 長谷川大さん

 「本郷の箱入り息子」を自認する長谷川大さんは、鮮魚店「魚よし」の3代目だ。店は本郷通りから菊坂のゆるやかな坂を下る途中、かつて多くの文人や芸術家が滞在した「菊富士ホテル」跡の近くにある。

旬の魚のおいしい食べ方を知ってほしい

 「魚よし」は大正末期の創業。その頃は客が店に行って買うのではなく、店側が客先に出向いて注文をとり、商品を届ける「御用聞き」が一般的だった。「だから表通りに店を出す必要はなかったんです」。  当時の本郷は旅館街だったから、御用聞きでの卸売りが成り立った。菊富士ホテルも得意先の一つだったという。その後、時代の流れで旅館の廃業が相次いだため、店頭で小売りもするようになったが、近年再び保育園などへの卸売りが増えている。
 同店は加工品を置いていない。「お客さんには旬の素材のおいしい食べ方を知ってほしい」からだ。まずは魚のことを知ってほしいと、独自にフリーペーパーをつくって配ったこともある。しかし、それだと店を訪れた客にしか伝えられない。  そこで、最近はソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の「フェイスブック」を通じて、旬の魚や市場での仕入れの様子などの情報を発信している。SNSは情報を共有しやすく、直接の知り合い以外にも情報が広がる。「フェイスブックを見て魚が食べたくなって」と初めて来店した人も実際にいるという。

自分を育ててくれた街への恩返し

 長谷川さんは生まれも育ちも本郷だ。子供の頃から配達に行き、客先では「大ちゃん」と呼ばれ、お駄賃をもらうなどして可愛がられた。大人になっても「この街では皆の子供のまま」で、その頃と変わらない人々の愛情を感じている。大学卒業後はスーパーに勤めたこともあるが、商品をただ売ればいいという仕事は肌に合わなかった。対話の中からそれぞれの客に最もふさわしいものを提案し、満足してもらうような商売をしたい。そんな想いから店を継いだ。
 地域に根付いた店にはさまざまな人が顔を見せる。トイレを貸してほしいという子供、道を尋ねる人。卸先の保育園の子供たちが通りがかりに声をかけてくれたり、母親と一緒に寄ってくれたり。本郷は関東大震災と空襲の影響で、代々続いている店が実は少ない。そんな中で「単にモノを売るために魚屋をやっているわけではない」と長谷川さん。
「店というのは開いているだけで、街を見守る機能を担う。何かあったときに気軽に助けを求められる、そんな店でありたいですね」
 自分を育ててくれた街への感謝の気持ち。それも商売を続けていくうえでの大きな力となっている。(文:相良好美 写真:清水美由紀)

魚よし

東京都文京区本郷4-36-5
電話:03-3811-2256
営業時間:12:00~19:00
日曜・祝日定休

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