本郷百貨店
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文人スイーツが好評「㐂久月」 栗田 洋さん

 「㐂久月」の店先には繊細な色や形の練り切りが並ぶ。その美しさから「食べるのがもったいない」と客によく言われるが、「食べてもらわないとこっちは商売にならない。お菓子の楽しみ方は人それぞれでいいんですよ」と店主の栗田洋さんは笑う。

本郷の客の要望に応える菓子を

 本郷で育ち、この街を見つめ続けて70年。高校卒業後、他所の店で4年間修行してから店を継いだ。幼い頃は、春日通りの道幅が今の半分くらいで、都電も走っていた。「道幅は狭い方が商売しやすい。道幅が広くなると渡る手間が増えるでしょ。だから賑わっている商店街は道幅が狭いんです」。かつては多くの人で賑わった春日通りの商店会も、道路の拡張とともに店の数は減ったが、栗田さんは変わらず、この場所で和菓子屋を営んできた。
「菓子は単価が低く、手づくりで量産もできない。1日につくれる数はたかが知れている。でも、店を増やすとか欲張らなければ潰れはしない。面白い商売なんです」
 主力商品は練り切り。常連客にはお茶の先生も多い。茶事用の注文を受けたときは、「顔の見える商売をしたい」という思いから事前に必ず見本をつくる。その際、真っ先に確かめるのは菓子器や茶花、掛け軸の色だ。例えば秋の開催で茶花にモミジ、軸に寒椿を使うなら、それらに重ならないように菓子の色や形を考える。
「茶事では季節感が何より大切だから、お客さんとの相談は欠かない。そのときに『できない』とは絶対に言いません。とにかくお客さんの要望に応えることが仕事だと思っているから」

50年目に入って欲が出てきた

 この道に入って50年目。「ようやっとお客さんに心から気に入ってもらえるものをつくれるようになってきた」と話す。アイデア次第で菓子は何種類でもつくれるが、子育てなど生活の忙しさから、手慣れたデザインの菓子しかつくらなかった時期もあった。それが落ち着いた現在は仕事への欲が再び高まり、新しい菓子づくりをあれこれ試みている。
 そのきっかけとなったのが、宮澤賢治の作品を連想させる菓子をつくってほしいという注文だった。「筋なんか頭に入ってこなかった」けれど、『銀河鉄道の夜』を初めて読み、イメージを膨らませて菓子をつくった。その経験を活かし、また、街づくりNPOの活動などでヒントを得て、試行錯誤の末に生み出した「文人スイーツ」は、区外への手みやげに好評だ。ピーナッツが大好物だった夏目漱石にちなみ、求肥にピーナッツを練り込んだ「そうせき」のほか、「おぼろ月」(樋口一葉)や「雁」(森鴎外)がある。

㐂久月

東京都文京区本郷4-6-13
電話:03-3811-0467
定休日:日曜日
営業時間:9時~20時

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