本郷百貨店
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次につながる葬儀を提案する「杉元」 池田弘さん

 葬儀会社「杉元」は創業110余年。代表取締役社長の池田弘さんは現在76歳で、大手企業を退職後、6年前に同社社長に就任した。葬儀の仕事に携わるようになってから、自身の死生観や「おくりかた」を考え直したという。

その人とのつながりを思い出す「死」

 「今の時代、葬儀のときほど家族の心が一つになる機会はないのではないでしょうか」と池田さん。近年は葬儀の簡略化が進み、定額制も増えた。それらの多くは葬儀の流れが合理的である反面、機械的だ。しかし、「明日からはもう会えない。そのことを実感したときに初めて、人はその人とのつながりを思い出すものです」。それは人が次に生きていくうえで最も大切なことなのに、今の日本人が最も忘れていることでもある。東日本大震災で期せずして「死」と向き合い、改めて気づいた人も大勢いただろう。
 池田さんはいつも二つのことを社員に伝えている。葬儀業は遺体処理業ではないということと、マニュアルではできない仕事ということだ。その言葉の裏には「人間性、つまりハートを大切にしてほしい」という思いがある。
 葬儀業に休みはなく、同社は24時間体制で数名の社員を待機させている。そのぶん人件費がかかるから定価販売はできないが、だからこそ「大切なのは、どんな葬儀にするかという提案だよ」と社員を諭す。遺族の気持ちをしっかり支えながら、短時間に故人の情報や遺族の望みを把握し、残された人が次の生き方を考えられる葬儀の場をつくり上げる。そんな葬儀を皆が提案できるように、一つが終わるたびに反省会を行い、意識を高めることを促している。

葬儀から「生きる」ことの意味を考え直す

 葬儀になるべくお金をかけないでほしいと遺言する人もいるが、池田さんは「葬儀は故人のためというより、残された人が区切りをつけるために必要な儀式」と語る。別れは確かに悲しい。けれども会えなくなって新しい関係が生まれることもある。「この世を去った人が心の中で話しかけてきて、あれこれ悩みを整理してくれるんです。そうやって支えられたことが私自身、たびたびあります」。故人はそれぞれの人の身近なサポーターになり得るのだ。
 「何のために葬儀があるのか」という問いはすなわち、「生きるとはどういうことか」という問いにつながる。一つの細胞が生まれて人類の歴史が始まった38億年前から、人は命をつなぎながら生き続けてきた。
「生きるということは、預かった命を健全に次の世代に受け継いでいくこと。だから葬儀も人生の終焉に蓋を閉じるものではなく、次につなげるためのステップ。私たちが葬儀に心をこめたとき、残された人にとって次の何かが生まれるのではないかと考えています」(文:相良好美 写真:清水美由紀)

杉元

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