本郷百貨店
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百年前から続く「芙蓉堂薬局」 川又靖則さん

 本郷三丁目の交差点の北西の角、交番の後ろに立つビルの1階で、自動ドアを常に開けた状態で客を迎えるのが「芙蓉堂薬局」だ。創業は1913年。4階では保険調剤も受け付けている。

自分の仕事は御用聞き

 1900年代の初頭、芙蓉堂薬局が面する春日通りには都電が走っていた。「昔は都電の回数券も扱っていたみたい。百年前からいろんなことをやっているからね」と薬剤師の川又靖則さんは、アルバム片手に街の歴史を教えてくれる。
 本郷三丁目を通る路線は71年3月にすべて廃止された。その9年後、川又さんは結婚を機に芙蓉堂薬局に就職。大学卒業後の2年間は大手総合スーパーの薬品部で働き、年下のチーフに率先して頭を下げ、店頭陳列から仕入れ、販売など、現在につながる知識と経験を得た。
 現在は兄・徳重社長との二人三脚だ。主に1階の店頭に立つ川又さんは、自らの仕事を「御用聞き」と話す。「薬屋っていうのは昔から『よろず相談窓口』みたいなものなの。コンビニがなかった時代には日用品や食品、あらゆるものを置いていたし、今も『何か困ったことある?』って聞くようにしている。何かあった時には思い出してもらいたいから」。
 1階薬局の奥にはカウンターと隣り合うように椅子が並んでいる。近所に住む年配のご夫婦が来てそこに腰かけると、川又さんは真横のカウンター越しに寄り添い、世間話を始めた。横に並べば向き合うよりもずっと気楽で距離も近い。

チーム医療ならぬ「チーム商店街」

 大学時代には病院での実習もあったが、その世界に違和感を持った。「当時はお医者さまと話すには何でも看護師さんを通さなくちゃならなかった。でも、間に人が入ると情報が正確ではなくなる。僕はダイレクトに反応が返ってくる方がいいと思った。人と触れ合うライブ感が好きなのね」とくしゃりと笑う。
 本郷の商店街の活動にも精力的に取り組む。薬や健康についての講演で、地域に出かけていくこともしばしばだ。「僕たちが新たに知った情報があれば、それを地域に伝えに行くことも商店街の仕事の一つなんじゃないかな。医療の世界では職種を越えた連携を『チーム医療』と言うように、僕らは『チーム商店街』。店主同士がつながりを保ち、それぞれのできることを持ち寄りながら、いろんなことをどんどん一緒にやっていきたい。誰かの『これがやりたい』を実現するフィールドを考える、それも商店街の役目だと思う」。
 常連の男性客が「よ、色男」と声をかけた。口を大きく開け、豪快に笑う川又さん。その声は腹の底からすっと伸びる、とても無邪気な声だった。(文:井上瑤子 写真:清水美由紀)

芙蓉堂薬局

東京都文京区本郷4-2-1
電話:03-3816-2410
定休日:日曜・祝日
営業時間:平日・土曜9時〜19時 

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