本郷百貨店
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聴者とろう者が自然に共存「Social Café Sign with Me」 柳匡裕さん

 本郷通り沿いの雑居ビルの2階に店を構える「Social Café Sign with Me」。ろう者の柳匡裕さんが3年前に開いた、食べるスープを提供する手話カフェである。

店内の公用語は日本手話

 扉を開けてまず目に飛び込んでくるのが、壁一面のホワイトボードだ。「すごく美味しかったです」「今度は手話を覚えてきますね」といった温かいメッセージで埋め尽くされている。英語や中国語、ハングルなど各国の言語で書かれたものもある。
 この店での公用語は日本手話だ。スタッフにはろう者も聴者もいるが、手話でのコミュニケーションを基本としている。客はたとえ手話ができなくとも、メニューを指差して注文でき、ホワイトボードを用いてスタッフに筆記で質問することもできる。一般的なカフェのように「いらっしゃいませ」「○○へようこそ」といった店員の声こそ聞こえないが、柳さんやスタッフが優しい笑顔と手話で迎えてくれる。心地よい静寂に包まれた店内で、客はゆっくりと食事やおしゃべりを楽しむ。
 「お客さんの9割は聴者。そして非手話者が8割を占めます。東大関係者や近所のママさんたちなど、実にさまざまな人が来店してくれます。聴者もろう者も関係なく利用でき、また、両者が自然に共存できる理想の形がここにはあります」
 実際に食事をいただくと、「美味しいです」と手話で伝えたい気持ちが溢れてくる。訪れた客が思わずホワイトボードにメッセージを書きたくなるのも無理はない。少しでも手話で話がしたくなる、ここはそんなカフェなのだ。

本郷からろう文化を発信

 柳さんの前職は障がい者の就労支援だった。就労率は高かったが、採用ありきで活用まで考えている企業は少なく、働く喜びが感じられずに離職する人が後を絶たなかった。こうした現状を打破するために、当事者の問題は当事者の手で取り組まなければ本質的な解決にならないと思い立って起業。「当事者による当事者の雇用創出」「当事者による当事者の職域開発」「当事者による当事者のロールモデル発信」をミッションに、同店をスタートさせた。
 「手話でストレスなく暮らせる社会をつくるには、将来、政治や企業のリーダーを担うであろう東大生に、ろう者の存在を正しく認知、理解してもらわなければなりません」と柳さん。そのために本郷の地を選んだ。「歴史のある街に、ろう文化や日本手話という足跡を残したいですね」。今後の夢は、さらなる雇用の創出を目指し、2号店をオープンさせることだ。
 つたないながらも手話で客が一所懸命に気持ちを伝え、スタッフと微笑みを交わす。このカフェと同じ光景が日本中に広がるのだとしたら幸福なことだ。(文:阿部博子 写真:清水美由紀)

Social Café Sign with Me

文京区本郷5-23-11
http://signwithme.in/
営業時間 平日11時〜21時
日祝平日11時〜19時
定休日 不定休

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