本郷百貨店
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あの「小川軒」の暖簾分け店 小川洋さん

 「御茶ノ水 小川軒」の店主、小川洋さんは、明治38(1905)年創業の老舗洋食店「小川軒」の3代目。20余年前に、かつて「本郷町」と呼ばれていた湯島地区に世田谷から店を移した。ゆったりとした雰囲気の中で料理を味わえるレストランは地下1階に、カレーなどを気軽に楽しめるカフェが1階にある。

先代の味と向き合って気づいたこと

 小川さんが本郷に店を移したのは、前の店が立ち退きになったときに知人から声をかけられたのがきっかけだった。それまで本郷に馴染みはなかったから、初めは戸惑ったという。「どんな客層、どんな商売の人が住んでいるのか、さっぱりイメージが沸かない。そこで、実際にこの地を訪れてみたら、御茶ノ水駅からも湯島駅からも近いのに落ち着いた街だと感じ、思い切って移転したんですよ」。以来、街との交流の中で店を育ててきた。  先代である父は小川さんがホテルなどで修業中に他界したため、一緒に厨房に入った経験はない。父の店を引き継いだ兄を手伝って小川軒の味を覚えた。独立後は自分なりの味も追求してきたが、あるとき、洋食の基本といえるデミグラスソースの味が父とは微妙に異なるのはなぜだろうと思った。
 父のつくり方を知る何人かに尋ねて回ったところ、タマネギ、ニンジン、ニンニクなどの香味野菜のうち、ニンニクを入れていなかったことが分かった。それからはニンニクを抜いてみたら、ソースを煮込んでいる間に立ち上る香りが以前とは違う。その香りは材料を煮込む前の段階、香味野菜の炒め方次第で毎回変わってくる。「炒め方が雑だと香りも雑になってしまう。父と同じ味を出すにはニンニクを抜くだけでなく、そういう些細なことも一つひとつ、もっと気をつけなければならないのだと改めて気づきました」。

レストランの主役は客、我々は黒子

 小川軒といえば半生菓子の「レイズンウィッチ」も人気だ。これは50年以上前に、先代が15年以上の歳月をかけて製品化した。客がレストランを利用するのは昼と夜の限られた時間だけ。それ以外の時間にも気軽に店の味を楽しんでほしいと、フランスの郷土菓子をヒントに考案したという。これも、守り続けている味の一つだ。
 料理人であると同時に、経営者でもある小川さんは、「レストランは単に食事を楽しむ場というだけでなく、いろいろな役割があると思っています」と話す。友人との再会、仕事仲間との打ち上げ、お見合いやデートなど、日常を彩るイベントの舞台としてのレストラン。それを常に意識して、「レストランではお客さんが主役です。そのために我々は黒子に徹すべきだと考えています」という。
 客に「美味しかった」「また来るね」と喜んでもらえると、普段の苦労が吹き飛ぶ。「そのひと言が聞きたくて毎日やっているようなものですね。それ以上の目標はないんじゃないかな」。小川さんはそう言って微笑んだ。

御茶ノ水 小川軒

東京都文京区湯島1-9-3
電話:03-5802-5420
営業時間:ランチ11:30~14:00/ディナー17:30~20:00
休日:日祝

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