本郷百貨店
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地域の客と密な信頼関係を築く「メガネのイワサキ」 岩崎美佐男さん

 本郷通り沿いで東大と同じ並び、赤門から100メートルほどの立地にある「メガネのイワサキ」。この本郷店は1987年の開業で、他5店舗を都内に展開している。

安売り店とは一線を画す営業スタイル

 「横から見ると衝撃的にカワイイ!」「高いだけのことはある」「東大の先生に好評です」「人生変わるかも」。売場に並ぶメガネに添えられたキャッチコピーはすべて、社長であり本郷店の店長でもある岩崎美佐男さんが自ら手書きしたもの。見ると思わず顔がほころぶ。
 岩崎さんは茨城県の出身。上京して就職したのが文京区大塚のメガネ店で、独立して店を構えるにあたり「東大なら先生も学生もメガネが必要だろう」と今の場所を選んだ。実際、常連客に東大の先生は多い。
 以前は学生もよく来店したが、安売り店が増えた昨今は少なくなった。安売り店の台頭とともに単価は下がり、岩崎さんが創業した頃は「いずれ1兆円産業になる」と言われたメガネの市場規模も、現在は4000億円を下回るまでに縮小している。
 しかし、岩崎さんはその状況を悲観することなく、前向きだ。豊富な話題で相手の心をつかみ、客との信頼関係を密に築くことに努め、地域に根を下ろす営業方針で安売り店とは一線を画す。創業時からずっと付き合いの続く客や、一緒に海外旅行するほど親交の深い客もいるというエピソードに、その人柄がうかがえる。

ツボを心得た接客術で常連客を増やす

 岩崎さんは実にいろいろなことを知っている。取材時もこちらの居住地や出身地に関する話がポンポンと飛び出す。「知らないと接点が生まれないでしょ。情報はコミュニケーションの最大の武器。私は知ったかぶりしているところもあるけどね」。会話のテンポも小気味がいい。
 「お客さんに自分の話をしたらダメ。常にお客さんの話を広げていくのが商売というもの」。そういえば店を訪ねて「今日はご自身のお話を」と切り出したら、初めぎこちなかった。「自分のことを話すのは慣れていないからリズムが狂ったんだよ。もう65歳だからこの習性は変えられないでしょ」。自宅で一緒に暮らす上の孫は15歳というのが信じられない若々しさだ。
 岩崎さんの客との距離の縮め方は巧みだ。話しているうちに、この人が勧めるメガネなら間違いないと思う自分がいることに気づく。そして本当に、同店の客はその人によく似合うメガネをかけているのだ。まさに接客のプロ。初めて来た客が数十万円のメガネを即座に買ってくれたという話もさもありなん。この店を贔屓にする客はこうして増えるのかと合点がいく。
 気さくな岩崎さんのことを店員と思い込んでいる客から、「ずいぶん長く勤めているね。一所懸命に仕事しているからクビにはならないよ」などと言われたこともあるそうだが、「社長と思われていないのは本望」と笑う。前触れなくひょっこり立ち寄る常連客をいつでも迎えられるように、ほぼ毎日店に出る岩崎さん。「特にやることがないんだよ」。最後まで岩崎節が全開だった。(文:長井美暁 写真:清水美由紀)

メガネのイワサキ

東京都文京区本郷5-24-6
電話番号:03-3811-0018
営業時間:10時~19時
休日:日曜不定休

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