本郷百貨店
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フランスの食と文化を伝えるフレンチレストラン「ペジーブル」 日田守さん

 春日通りの路地裏に突如現れる大きなクスノキ。フランス料理店「ペジーブル」では窓からそのクスノキを眺めながら、PAISIEBLE(穏やかな)の店名通り、心と体に優しいフランス料理をゆったりといただくことができる。

料理に込められた料理人としての心意気

 シェフの日田守さんがフランスでの料理修行を終えて店を構えたのは2006年。この場所にはフランス好きの大家さんの意向でフランス料理店が代々入居し、その歴史を日田さんが受け継いだ。以来、美術館の学芸員だったというマダムの真弥子夫人とともにフランスの食と文化を伝えてきた。「本郷は昔からそうであるように、やっぱり文化の発信地。でも、ここの人たちはそれをひけらかさない」。そうした本郷の人々の姿を、日田さんは「粋」と表現する。
 同店のディナーには決まったメニューがない。それは「その日の食材を活かしたい」という思いからだ。基本は「おまかせ」だが、「おしつけ」にはならないように、前菜も主菜も数品から選べるようにしている。客に料理を選んでもらうこの形式は、料理の説明以外の対話が客との間に生まれる。日田さんは料理と同じくらい客とのコミュニケーションを大切にしていて、それを主に担当するのがマダムだ。
 日田さんは客をよく観察し、姿や装い、話し方などから得た印象を料理に反映させている。そこには日本料理の料理人だった祖父の教えがあった。「料理人とは『人の心を料(はか)り理(おさ)めし者』。子供の頃にこの言葉を聞かされ、料理人になってからはこれを心得として料理に向き合っています」。

フランス料理の歴史を絶やさないように

 祖父は日本料理、父は広東料理と、日田さんは料理人の家系に生まれながらも、高校時代は電子工学の道を志していた。しかし、大学受験に失敗し、料理人になろうかなと父に相談したところ、「これからは洋食の時代だ」とフランス料理を勧められた。幼い頃より映画を通じてフランス文化に惹かれていた日田さんは、中学生の頃にフランス語を独学していたほど。そこでフランス料理の料理人になると決意して渡仏。
十数年の日本での修行を経て、憧れのフランスへ渡る。8年間の修行時代にはフランス料理の原点を懸命に追求した。「星付きのレストランに行っても、そこで出される料理の原点が知りたくて。原点とはつまり家庭料理です。そのためにフランス人の友達の家にお邪魔して、友達の親がつくる料理やその土地の古い料理などをいろいろと食べさせてもらい、その後、その料理をアレンジしたものを試作したりしていました」。
 日田さんが今、マダムと一緒に取り組むのが、これまでの料理人人生で蓄積してきた膨大なレシピをまとめることだ。日本のフランス料理と最先端のフランス料理、そしてそれらが融合したフランス料理を40年以上にわたって味わい、つくってきた日田さんは、フランス料理のまさに生き証人。料理の中には時代の流れで途絶えてしまったものも少なくないが、本郷の地で、フランス料理の歴史をつないでいくことに意欲を燃やしている。(文:相良好美 写真:清水美由紀)

フレンチレストラン ペジーブル(PAISIBLE)

東京都文京区本郷1-28-32 パークハウス楠郷壷1F
電話番号:03-3818-5071
営業時間:ランチ11時30分~14時 ディナー18時~21時
定休日:水曜日

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